本の紹介:『愛人(AI-REN)』(田中ユタカ)
最終更新日:2010-02-14
作者名:田中ユタカ
刊行数:全5巻(後で発売された「愛蔵版」は上下巻)
掲載誌:ヤングアニマル(白泉社)
Website:田中ユタカのページ(作者公式)
##公式サイトで、あいやイクルのイラストが幾つか見れます。
##このページは全5巻の単行本を元に書いたものです。『愛蔵版』には作者インタビュー等が追加されています。
よくある誤解
-「愛人」は「アイジン」じゃなくて「アイレン」と読む。
-エロ(成人)マンガじゃなく、一般向けマンガである。
ということで、「愛人」です。日本語読みだと「あいじん」で妾さんのことを指しますが、中国語読みだと「アイレン」で、意味は正反対「配偶者」って意味になる…そうです英語で言う「ダーリン」、日本語だと「つれあい」ですね。全く逆の意味なので注意が必要です。
そして田中さんのマンガなので問答無用で成人扱いだと思ってる人がいますが、これも間違いで一般指定。といっても、内容的には高校生~くらいでしょうかね。多少暴力的なのと、難解な個所があるので。
人類の余命が残り200年余りと言われれている末期的な時代。
『愛人(アイレン)』それは余命幾ばくもない、末期的な病気の者に与えられる、人造の「恋人」。
主人公「生(イクル)」は愛人の希望を申請する。その申請はあっけなく受理される。
誰から見ても余命いくばくもないイクルは、自分の愛人に「あい」と名付け、残り少ない日々を二人で過ごすことを決意するが、「愛人」はその性質上、自分と同様に寿命幾ばくもないことを知る。
「殺すために生き返してしまった」ことに愕然とするイクル。
末期的な、未来のない世界。今まで愛する人も、愛してくれる人もいなかったイクルは「あい」との日々の中で、生まれてきた意味、生きる意味を模索し始める。
残されたわずかな時間、どうかボクと、一緒に生きて欲しい。
簡単に書くと、そんな話。
といっても、別に説教くさい印象はなくて、田中さん特有のラブストーリーが前面に出ていて、その中でこれらの「問題」が語られていくため、特に反発心を抱くことなく読み進められます。
田中さんにとっては初めての長編だったそうです。
作品自体は全五巻なんですが、田中さん自身があとがきに書いてある通り、一巻ずつでも読めます。一巻なら一巻、二巻なら二巻の最後で「完」となってても納得できるかんじです。その積み重ねで全五巻。
少しずつバラされてく世界観の設定なんかが気になって結局全部読んでしまいますが。
第1巻 収録作 | 第2巻 収録作 | 第3巻 収録作 |
#1「春の日に、君と帰る」 #1.5「どうぞ、よろしく」 #2「ごはんが、できたよ」 #3「AGH-RMS あい」 #4「LIVING WITH GHOSTS-ヒトの営み-」 #5「100万年のピクニック」 #6「先生とボク」 #7「あいの絵日記I -たのしいまいにち-」 #8「初恋」 (初出:ヤングアニマル'99年11号~'99年19号、#1.5描き下ろし) |
#9「この星に還る」 #10「スティル・ライフ -静かな生活-」 #11「ホーム・スウィート・ホームI -子供たち-」 #12「ホーム・スウィート・ホームII -青空と夕やけ-」 #13「思春」 #14「遺言」 #15「泣く女」 #16「ないしょのこと」 #17「君と見る青空」 (初出:ヤングアニマル:'00年3号~'00年6号、'00年8号~'00年12号) |
#18「おかえりなさい」 #19「少年の朝」 #20「月光」 #21「おでかけ おでかけ」 #22「鬼火」 #23「ひまわり」 #24「あいの絵日記II -すきなひとといっしょ-」 #25「夢を見た」 #26「情歌」 (初出:ヤングアニマル:'00年19号~'00年22号、'00年24号、'01年1号~'01年4号) |
第4巻 収録作 | 第5巻 収録作 |
#27「蜜月 -ハニームーン-」 #28「この世にて」 #29「ひとごろしの夢」 #30「誕生 -BIRTH-」 #31「Stand By Me」 #32「からだのうた」 #33「この世界とボク -We live you-」 #34「NEW WORLD」 #35「生きているボク」 (初出:ヤングアニマル:'01年11号~'01年14号、'01年16号~'01年20号) |
#35.5「雪景色 -にんげんのふるさと-」 #36「夏の恋人」 #37「初夜」 #38「夜」 #39「海・明け方の夢」 #40「帰宅」 #40.5「また明日」 #41「手紙」 #42「ヨシズミ・イクル」 #42.5「あいの絵日記III -ヨシズミ・イクルの遺品より-」 #43「春の日に、君と帰る」 (初出:ヤングアニマル:'02年2号~'02年6号、'02年8号~'02年9号、#30.5/#40.5/42.5/#43 描き下ろし) |
この作品、連載ベースで第一話が '99年5月開始。単行本も、'99年に第一巻が発売され、その後順調に連載・発売されていき、連載ベースでの最終話が'02年5月に雑誌掲載。
そして当初は'02年夏に完結巻・第五巻発売とされていたにも関わらず、延期に次ぐ延期の末、ようやく発売されたのが'04年10月頃という異例な発刊となりました。
第四巻が'01年末発売で、第五巻が'04年10月です。
第四巻で完結だと思って待ちきれずに売り払った人も居たようです。前述した通り、作品構成の性質上、確かに「第四巻・完」でも十分納得できるんですけど、やはり五巻も読んだほうがいいのは言うまでもないことで。
所々「?」という部分はありますが、『愛人』全体で見た場合、納得できる終わりかたになってます。好き嫌いはあるでしょうけどね。
不満があるとすると、もうちょっと裏設定をバラしてほしかったなー、ってことでしょうか。
語られてるテーマ(生きる意味とか、愛する人の意味とか)に比べて別に説教くさくないので、私は結構好きです、これ。
田中さんの絵柄とか、話の構成の仕方が好きな人にはオススメです。「短編を並べて長編を作ってる」かんじで、またやってほしいなぁ(サイトを見るとかなり苦労が絶えなかったようですが)。
'10年現在。その後「短編を並べて長編を作ってる」かんじのものとして、『愛しのかな(amazonへのリンク)』(全3巻)が出ました。生死をテーマにしてる点では一緒ですが、『かな』はより明るくコメディタッチなので万人向けです。
▽小説等の紹介▽封印作品の謎